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2004 / AtoZ


avalanche/雪崩 地滑り

 春は巡らぬままに幾冬もを越える。
 巡らない春はいつかいちどきに訪れるのだと雪の下で笑う。

bewitched / 魅惑された 魔術をかけられた

 鶴が両翼震いかざして娘に化ける。
 一歩一歩を飛び上がるようにさくさくと行く。

canon / カノン

 私は花、美しくなくとも。
 私は光、強く誰の眼を射ることもないけれど。

disguise / 見せかけ 変装

 いつも目の前の席で眠りこけていたババアが、言った。
 あんたの正体は、いつ見られるんだい。

endangered / 絶滅の危険にさらされた

 私は戻りたくはなかった。
 貴方を最後にする為だけに、私は戻りたくなどなかった。

fair / おてんき

 だけどその人、私のことを見て、笑ったんだよ、とてもひっそり。
 見逃してしまうくらいのかすかな顔で。笑ったんだよ。哀しそうに。

gyve / 足枷

 私には見えている。けれども貴女には?
 姉さま、貴女には、闇の中に蠢くものが、見えはしませぬか。

hilt / 刀の柄

 私は貴方をひどく畏れた。同時に愛した。
 貴方に寄り添えば、私は毀れた。貴方の囁きで、私は崩れた。

imbrue / 血に穢れる

 流れ落ちたのはたくさんの、血。
 私の掌には、流れ落ちるばかりの、尽きることのない、たくさんの、血。

jargon / 普通の人には通じない

 けれど私は言って頂きたかったのですただ一言、きっと報われる。必ずや救われる。と。
 いつかなにもかもが流れるように良い方へ向かう、と。

Louix-Louix / ルイルイ

 僕のいるところは斯様に高いので、風向きの変化は鼻先で知れてしまう。
 貴方の船がゆっくりと背を向けるのが、ここからは見える、ルイルイ。

mortuary / 霊安室

 長い箸を握ってちらりと見た頭蓋にも、衝撃を示す痕は見られなかった。
 私はたぶん心臓に近い辺りの、小さな骨の破片を拾った。

own / 罪を認める

 貴方を突いたと同じ処から、黒い濁った血が落ちた。
 身体の腐ってゆく音がした。

providence / 神意

 次から次へと降り積もる君の言葉が、処理しきれなくなる。
 それでも君がすきだ。

Quixote / 幻影が僕を導く

 どこに暮らしているのか、誰と暮らしているのか、
 何故まるでさらわれるようにして突然に僕の前から姿を消したのか。

relief / 救援 解放

 後に語りたい、後に愛したい、後に嬲りたい、
 後にもう一度、放り捨てたい。

shadow / 影法師 幻 尾行者

 そしてまた、君は眠るようにとふとふと勢いを失って、歩き続ける。
 きっともう、僕が後ろにいることすらも、憶えていない。

tread / 足取り

 てっぺんにたどり着いた時には疲れ切っていた。二人して転がって山を下りた。
 麓についた時には別々の場所にいた。それから貴方を捜し出すのに八年かかった。

ultimate / 揺るがされない根元の

 今日はどうでした。世界は貴方にどう触れました。
 今日はどうでした。人々は貴方にきつくはありませんでしたか。

viaduct / 陸橋 高架

 あの橋の下には、何か言葉で言い表せない、どろどろとした名残があった。
 決して照らし出されることのない、濃くなるばかりの暗闇があった。

will / 死ぬ前に言い残したこと

 光るほど青白い女の人の幽霊が私のうえに倒れかかってきた。
 生きたかったらば殺すしかないのだと言われた。

zillion / 無数 数多

 下からも強い光。背後からも強い光。手のひらに反射して、血管まで透き通るような錯覚。
 そしてそのどれも貴方ではない。

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