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imbrue / 血に穢れる

 真実を手にした。
 そしてそれを失う。
 失った者だけが、その血文字を綴ることをゆるされているのだと、かのひとは言った。
 私がかのひとから真実を奪ったのだと、かのひとは言った。
 滑稽だった。
 私は何も得なかった。
 あふれ出したのは、たくさんの血。
 流れ落ちたのは、たくさんの血。
 貴方を手にした。
 そして貴方を失う。
 失った者だけが、その血文字を綴ることをゆるされている。
 私が真実を奪った。
 滑稽だった。
 流れ落ちたのはたくさんの、血。
 私の掌には、流れ落ちるばかりの、尽きることのない、たくさんの、血。
 溢れだして、流れ落ちて、床を走り、貴方を目指し、貴方を穢した。貴方を穢し、貴方の触れた、かのひとを穢した。
 真実を、かのひとから奪ったのは私だった。
 かのひとの真実を、私が染め上げた。
 私の中から溢れだした、たくさんの血。

 血。

 血。
 血。細くひとすじに流れ落ちる血。
 血。血。見上げた貴方から滴った血。
 血。
 血、私を内より突き破り、貴方を目指し真っ直ぐに走った。
 血。

 血。

 血、貴方が触れて、その指が穢れた。
 血。
 血、貴方の触れた、かのひとが穢れた。
 白く、虹色の、純色の、花嫁のみが纏うことをゆるされる、かのひとの真実を私が、血文字で穢したのだと、かのひとは言った。

 貴方を手にした。

 貴方を失った。

 たくさんの血が溢れでた。
 真実を手にして、それを失った、その者だけが血文字を綴ることをゆるされるのだと。

 かのひとは言った。
 私を憎んではいなかった。

 たくさんの、血。

[2004/5/2]

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