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tread / 足取り

 山に、のぼってみようじゃないか。

 そう言われた。
 行きたくもなかったけれど、断ってこじれるのが厭だったので、我慢してついて行った。
 一緒にいられるのは嬉しいけれど、誘ってくれたのも嬉しいけれど、どうせならもっとなだらかなシーンを選んでくれても良いんじゃないかしら。
 雲の中に入りながら少し不満に思った。
 てっぺんにたどり着いた時には疲れ切っていた。二人して転がって山を下りた。麓についた時には別々の場所にいた。それから貴方を捜し出すのに八年かかった。

 川を渡ろうじゃないか。

 そう言い出したのは十三年目だった。
 懲りていないのか、この野郎。
 驚いて呆れて、今度は断った。渡る必要なんてないでしょう。きっとそのうち橋だってできるし。向こう岸なんてきっとこっちとおんなじよ。
 説き伏せきれず、貴方だけさっさと渡ってしまった。
 信じられない心持ちで、仕方なく後を追いかけようとしたらばあっという間に流されて、遙か下流に行ってしまった。岸に這い上がり頭上に太い鉄橋を眺めながら、貴方が私を見つけてくれるまで、三年待った。

 海を越えてみたくないか。

 ついにそう言った。
 ああもう冗談でしょう。三度目の何たらって言うじゃない、と、思ったけれど、思ったからこそ、私の方が先に立って海へ行った。
 何もない方向へ漕ぎ出して、凪の真ん中で舟を泊めて、

 もう飽きた、
 こんなふうにふらふらと二人で待ったり探したり歩き出したり遮られたり、こういう仕方にもう飽きた、

 そう告げたのに、あの莫迦は。

 それじゃやっぱり僕は行かないと。
 君がこんな仕方に飽きているのならますます行かないと。
 どれほどかかっても君は僕を捜すのだろう、やっぱり。
 僕が君にしたように、君は僕を捜すだろう。

 そう言って、海に飛び込んで、ばちゃばちゃ泳いで行ってしまった。波のない海をばちゃばちゃと、水はねあげて泳いで行ってしまった。

 私は舟に残されて、後を追おうか考えている。
 舟は少しずつ、流されている。

[2004/1/30]

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