relief / 救援 解放
スロウ。
スロウモオション、何もかもが緩慢、誰も彼もが、力の方向を示して倒されてゆく。
まるでスロウ。
誰も彼もが、抗いつつもばたばた、
何もかもが、逆らいきれずどうどう、
崩されてゆく。倒されてゆく。そうしてそのままに流されてゆく。誰も彼も、周辺の倒れきれずにいるものに掴まって、更に崩壊は続く。雪崩れるように左から右へ、まるでスロウ。緩慢に、けれど確実に。
崩壊してゆく世界の中でその人は立っていた。
何もかもが足元を流れてゆくその緩慢な激流の中で、その人は
立っていた。
事も無げに。
哀しげに。
眸をしぼって、僅かに唇ひらき、
立っていた。
生きていた。
まるでスロウ。その人は天を仰いで、まるで風に煽られるようにして、足元を流されてゆく誰の腕にも掴まらない。誰も彼もがその人をすり抜けてゆく。まるでスロウ。緩慢に流されるその真ん中に立って、その人は生きていた。事も無げに、瞼をふせた。
まるでスロウ。
風が吹くたびに、また何か薙ぎ倒す為の風が吹くたびに、その人からは、カンナで削られるかの如く、しゅるしゅると糸がのびる。指の先、服の裏、肘の関節、膝の関節、あらゆる箇所からするすると糸がのびる。
まるでスロウ。その糸が、意志を持って押し流されるものを拾い上げてゆく。
その人は事も無げに生きて、何もかもが緩慢に流されてゆく激流の中に事も無げに立って、少し哀しげに、眸をしぼって、僅かに唇歪め、嗤
っているのかもしれない、貴方は、嗤っているかもしれない、自分の思うがままに自分の残したいものだけを選り抜いて拾い上げて、
後に語りたい
後に愛したい
後に嬲りたい
後にもう一度放り捨てたい
理由は如何にせよ選り抜いて拾い上げて、貴方は、まるでスロウ。風が吹く、何もかもを薙ぎ倒す、そのたびに貴方は、するするとしゅるしゅるとその躯から糸のばして、拾い上げてゆく。後に愛したいものだけを、後に嬲りたいものだけを、まるで緩慢に。
流されてゆくものの中から、ぽつりぽつり。
私だけを決してめざさない。
なぜなら真っ先に倒れたから。
なぜなら真っ先に、流されたから。
まるで緩慢に、身体を放棄した、意識を放棄した、貴方を軸にして流され続けるものに、真っ先に我を投じたのは私だった、
だから。
[2004/4/27]
| 2004 / AtoZ |