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own / 罪を認める

 貴方を深く深く深く突いた、貴方は、

 すっ と、消えた。

 首を傾けて少し微笑む。
 消えてしまいそうに薄く微笑む。
 貴方を深く突いた。
 貴方は、夢のように消える。
 私の目の前に、何も残らなかった。
 貴方を突いたと同じ処から、黒い濁った血が落ちた。
 身体の腐ってゆく音がした。

 貴方が、浅く浅く浅くさぐった。
 私は足元から蟲に呑まれるようで、疼くようで、身動きもできなかった。
 暗闇の中を行くように、貴方は慎ましやかに進む。
 目を反らせれば飛びかかる、打ち伏せて喉笛喰い千切ろうと待ち伏せている、獣の性を、その眸の奥深い一点に見る。
 貴方は浅く浅く浅く、暗闇の中にあるような慎重さで、ひそやかにさぐる。
 私は足元から、背丈と同じほどもある蟲に呑まれるようで、疼くようで、脊髄をいちどきに吸い取られるようで、思わず呻いた。
 貴方の口角から、糸のように細く黒い血がするする流れた。
 崩れ落ちた身体の後ろから、貴方を貫いたひとと対峙した。

 貴方に広がってゆく、
 貴方の上に音もなく広げられてゆく、
 貴方の裡に水銀の如く満ちる、
 貴方にしみじみと浸透してゆく、私は羊水でありたい。

 私は貴方の外側を包み、貴方の内側に満ちる、私は羊水でありたい。
 貴方の、指を護り、髪をわけて、唇を割って、背を滑り、一分の隙もないほどに、貴方を包みたい。
 貴方の、膚から沁み入って、眸もなぞり、臓腑に触れて、血流に混じり、ぴたりと重なるほどに、貴方を満たしたい。

 貴方を愛した。
 斯様に深甚として。

 貴方を愛した。

[2004/4/25]

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