endangered / 絶滅の危険にさらされた
青い砂、白い月。
紅い夜、黒い海。
波の上に貴方は立っていた、亡霊のように声なくして。
月の下に貴方は立っていた、魔物のように。
美しげに。
貴方を諦めた昔のことを、後悔する暇もなく私は日常に明け暮れてきた。言い訳はしない。
けれど貴方はその長い髪から塩辛いどす黒い水滴らせて私を呪う。
なぜ私を残してこの世を去ったか
と、繰り返す。
貴方を残して去ったのではない。
貴方を迎えに此処に戻った。その為に私は彼方へ行った。
そう答えても、赦されぬまま。
唇はかたく結ばれたまま。
貴方の肌は青みをまして、頬骨は五度鋭さを増した。他人に執着するような、熱さを持った人ではなかった。その人が今私に向かって、過去の去就を責めようと言う。
嬉しさに思わず膝をつく。
貴方を残して貴方と別れて、こうして再び貴方を前に、私は初めて理解しました。
貴方を残して貴方を去った、貴方の細い母上のことを。
鋭さを増した頬骨のあたりが微かに動く。
唇はかたく結ばれたまま。
私に向けて絞られた眸は、赤みを帯びて瞬きもしない。無表情。波の揺らめきを映して髪の毛が光る。濃く藍く、ゆらりゆらりと、まるで蜃気楼のよう。
貴方の存在に疑問すらわく。
本当に、そこに。いるのは貴方なのだろうか。
貴方でないわけはない、私は戻り、貴方は責める。
私は貴方を斬り捨てるためにここに居る。
貴方は最後の生き残り。
私は貴方が仲間を殺して殺して殺し尽くすのを待っていた。貴方がそれを成し遂げることを知っていた。私は貴方が貴方の種族を根絶やしにして、最後に一人取り残されるのを待っていた。
私は貴方を、その時こそ斬り捨てる為に、待っていた。
私は戻り、貴方は責める。
私は戻りたくはなかった。
貴方を最後にする為だけに、私は戻りたくなどなかった。
青い砂はいま私の前に、白い月の下に貴方へと続く。
紅い夜が重く貴方を覆い、黒い海へと垂れかかってゆく。
[2004/2/1]
| 2004 / AtoZ |