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jargon / 普通の人には通じない

 貴方は、正直な貴方はついに私を助けてくれはしなかった。
 貴方は真面目で莫迦で正直だから、ついに私を助けることはできなかった。
 恨んでこう言うのではありません。
 私のこの手紙によって、貴方に後悔を生もうというのではありません。
 けれども、貴方に感じていただきたい、私のあの時の気持ちというものを感じていただきたい、私は貴方に助けてほしかったのです、私は貴方に因る私の助け方を知っていたのです、ほんの一言の慰めでよかった、貴方も私も真実ではないとわかりきっている戯れ言で良かった、私は、貴方にただ一言、嘘をついていただきたかった。
 それだけでした。

 やはり、恨んでいるのかもしれません。少しはそんな気持ちもあるのかもしれません。なぜたった一言が貴方には仰れなかったのか、私は貴方を恨みに思っているのかもしれません。
 貴方がたった一言を、貴方が真実に非ずと知っている一言を、私もそれは真実ではあり得ないと知っている、知っているけれども貴方の口から私にむけてただ一度発せられればどんなにか救われる、救われる一言を。
 貴方の口から、貴方のその秋風のような足元を探る声で、一言を。
 仰って頂けたらば私はこんな旅立ちをせずに済んだのです。
 一時の慰めにすぎないことは知っていたのです。
 それが偽りだということは知っていたのです。
 私は、信じたかったわけではないのです。
 私は拠り所がほしかったのです。
 それが空気の支えでも、架空の抱擁でも。

 貴方は偽りを畏れたのです。
 自分の背にかかる、偽りの如何なる重みも畏れたのです。
 貴方は貴方の為だけに畏れたのです。

 違いますか。

 やはり私は貴方を恨んでいるようです。御免なさい。けれど仕方がない。
 同じほどに恋うています。なおさら御免なさい。
 けれどもう、終いです。私の恋は切って落ちるように終わります。私の何もかもが、切って落ちるように終わります。
 貴方にこのように恨みがましい手紙を書いているのは、私の気持ちを知って頂きたいからです。そしていつかこの先に、貴方が進む道の上で同じような、私と同じように這い蹲り救いを求める魂に出逢った時に、偽る、ということについてのその強固なお考えを、もう一度省みていただきたいからです。
 私は知っていて、貴方も知っていた。二人とも真実ではないことを知っていた、それでもなお、いえ、それだからこそ、貴方はその言葉など私に何の救いにもなるはずがないとお思いであったかもしれない。

 けれど私は言って頂きたかったのですただ一言、きっと報われる。必ずや救われる。と。
 いつかなにもかもが流れるように良い方へ向かう、と。

 夢をみたかったわけではなく、騙してほしかったわけでもなく、私は蜃気楼をそれと知りながら楽しむ子供のように、それを心の慰めとして、歩きたかったのです。闇の中を手探りで行くこの心の慰めとして。
 報われる誓いなど交わされず、救いなど差し伸べられるわけはない。
 けれどそれでは足元が暗すぎたのです。
 蜃気楼でもよかった、私はほんの一時しか縋ることはできないとわかっていた。
 それを欲したのです。

 貴方は正直なあまりに、嘘をつくことはできなかった。
 貴方は私を救うことはできなかった。
 恨んでいるのではありません、やはり恨んでいるようです、ただ恋うているのです、同じほど恋うているのです、恨んではいません、
 恨んではいません。
 恨んでいます。
 救っていただきたかった。
 偽りでも真実でも、貴方の風なぞるような声で、架空の壁でもよい、ほんの一時もたれかかることのできるものならば、蜃気楼をそれと知りながら、けれどもしかしたらば本当かもしれないと、心の隅の、口には出さないわずかな処で信じ続ける子供のように、私は救われ得たかもしれなかった。
 貴方は嘘をつくことはできなかった。
 貴方が偽りを背負うことを畏れたあまりに。

 恨んではいません。
 苦しく恋うていました。
 けれど切って落とすように、終いです。

[2004/11/13]

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