shadow / 影法師 幻 尾行者
逃げる後ろ姿を追って、どこまででも行った。
走る後ろ姿を追って、一度だけ振り向いてもらえた時は嬉しかった。
歩みを遅らせる後ろ姿。
僕は、追いつけなかった。
君との距離を同じくしたままで、足を前に出すことはできなかった。
僕は動けなかった。
君と並んで歩くなど、君を追い越してその先を行くなど。
僕は考えもしなかった、君を畏れていた。
君を見失わないよう努めていた。
君と並んで歩くことが為らなくとも、君がたまに振り向いて、僕を知ってくれるのならばそれで満足、
満足だった、君を畏れていた。
けれど君は二度と振り向きはしなかった。
一度だけ振り向いて、もう二度と、振り向こうとしなかった。初めのうち、君は時折その足をゆるめて、
まるで僕が追いつくのを期待でもするかのように、時折その足をゆるめて。そしてそれは僕の、あまりにも、哀しくやるせない思い違いであるということを、僕はいつか知らなければいけないのだけれども、君は時折その足をゆるめた、まるで僕がその隙に君に、追いつくのを期待でもしているかのように、はじめの数年は。はじめの二、三年。その頃は。
だんだんに君は歩調を戻して行った、足をゆるめることなど二度としなくなって、僕を突き放すようにどんどんと歩いて行った。走らなければ、ついていけないような時もあった。四、五年目。
そしてまた、君は眠るようにとふとふと勢いを失って、歩き続ける。
きっともう、僕が後ろにいることすらも、憶えていない。
僕がまだ後ろにいることなんて、気づいていない。
けれど後ろ姿を、僕は追い続ける。
君に追いつけないことを僕は知っている。
君に追いつかないことを僕は知っている。
君を僕は追い続ける。
君が足を止めるまで僕は追い続ける、君が足を止めて、足を止めて倒れ伏してもう一歩も動けない、動かなくなったその時こそ、
僕は初めて君に追いつくことの、できる。
[2004/2/7]
| 2004 / AtoZ |