zillion / 無数 数多
その中に決して君がいない。
そのことを承知で眺めるのは、かくも苦しい。
この中に決して君はいない。
そのことを承知で、覆い尽くされそうなこの、光る星。
数えきれぬほどの星。
美しくもないけれど眺めることしかできない。
瞼を閉じてすら、光を拒むことはできない。
そしてそのどれ一つも貴方ではない。
楽しくもないけれど顔をそらす。
正面を向けば白い光、右を向いても左を向いてもただ白いだけの、目が痛くなるような白いだけの光。右手をあげて影を作ろうとしても、下からも強い光。背後からも強い光。手のひらに反射して、血管まで透き通るような錯覚。
そしてそのどれも貴方ではない。
光を眺めることなどしない。
触れもしない、言葉などかけない、照らされることすらも苦痛で仕方がない。どの星もはやく死ねば良いのに。あんなにかつかつと、痛いほど強い光を発することはない。暗くなれ、早く暗くなれ。闇に戻れば、それほど良いことはない。
何も見えなければ、存在するものに意味はない。
存在する数多の星が見えなくなれば、ここにいない貴方のことを、何故嘆く理由があろうか。
背中にぴたりと硝子の壁。
衣服越しにもひやりと冷たい硝子の壁。
右も左も、上空へ向けても果てのない透明の壁。
決して砕けることのない。
硝子。
硝子の向こう側からも数多の光。
硝子の向こう側にも数限りない星。
そしてそのどれ一つも貴方ではない。
背中の硝子にぴたりと背をつける私の、硝子一枚隔てたそちら側に、指の動きひとつ変えずに、ぴたりと背をつけたままの君がいる。
決して砕けることのない。
硝子。
[2004/1/28]
| 2004 / AtoZ |