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涙に理由無し
時間は夜、学校であったり病院であったり図書館であったりする建物の中に、十数人の仲間と一緒にいる。
暗闇の中に灯りを二つ三つともして、床に座るとスケッチブックを渡されて、アゲハチョウの羽の模様を描けと言われる。
私はふざけて落書きなんかをしているが、周囲の人を見るとみんな悩みながら真剣に描いている。あわてて私も蝶の羽を思い出そうとするけれど、うまく描けない。こんなことならば此処に来る前、図鑑でもなんでも見ておけば良かったと悔やむ。
突然部屋の中に、炎のように赤くゆらゆらと揺れる、人の形をしたものが現れる。
私の隣に座っている少女の死んだ恋人であるらしい。彼を殺した者に復讐をしに来たのだと、怯えながら少女は言った。
皆が一斉に逃げ出した。
Read More... 建物の中はとても広くて廊下がたくさんあって、おまけに暗いのでなかなか外に出られない。
廊下をぞろぞろ歩いていくと、たまに人が折り重なって倒れたりしている。彼はもう復讐を始めているらしい。少女が死体を恐がるので、彼女と死体の間に立って視界を遮ってあげたりしながら先を急ぐ。
炎のような彼の幽霊は、私たちが逃げれば逃げるほど凶暴で見境がなくなるようだ。
私は彼の恋人にこんなに優しくしているのだから、何とかお目こぼし願いたいものだと思う。
そこを通り抜ければ外に出られるという部屋につく。
今までずっと暗かったのに、そこだけ煌々と灯りがついている。
赤い炎のように揺らめく幽霊は、その部屋で狐の顔をした男を殺しかけていた。
あの狐の顔の男が、彼を殺したという張本人なのだ。
復讐には面倒な儀式があるらしく、幽霊は男の首に銀の鋲で穴を開けている。そんなことをされても身動きもしないほど、狐の男は意識がなくなっているらしい。
赤く燃える幽霊が、白い狐の顔をした男の首に、短い銀の鋲を、まるで印鑑でも捺すようにクニャリクニャリと押しつけているのを見るうち、私は泣いた。
悲しかったのではない。
狐の男が哀れだったわけでもない。
ただ堪らなかった。
私には幽霊の恋人の少女がしがみついていた。
彼を此処で殺したらいけない、と幽霊に言う。幽霊は復讐を止めようとする者にも容赦はしない。
けれど黙って見ているわけにもいかない。
彼を此処で殺したらばいけない。
この建物を取り壊して新しいモノを建てる時にケチがつく。
そう言うと、それまで私の腕の中で震えていた少女が、けろりとして
そうだ、ならば庭の池に沈めて殺せばいい
と、怖ろしいことを言う。
狐の男を殺すということは、私にとうてい止められるものではないのだと知る。もう意識すらない狐の男を池に沈めるということは大変厭なことのように思ったけれど、目の前で首に鋲を押し当てて復讐の儀式をされるよりはマシだと思った。
幽霊は狐を殺さなければいけない。
私はそれを変えることはできない。
どうしようもないのだ、ということが実感されて、いつまでたっても涙が流れた。
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2005.08.02.22:41 | by 架路 |
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