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2003 / 習作


半眸マホガニィ

 叫んだ。
 父は黙って母の身体を押し止めていた。

こととふ

 いつかそれと知らぬままに出逢うことがある。
 いつか必ず出逢うことはある。

屍剣士

 闇はさぞかし嗤ったことだろう、
 世界が永遠に救われぬままであったろう、

彼女と生け贄

 天の穴のふちに立った彼女、を僕ら世界中は取り巻いていた。
 彼女は気が触れたのだ。

顔半分の大人たち

 一度だけ吐き出すように言われたけれど。
 嘆かなくともいつかは逢える、ずっと遠いけれどいつかまた逢える。

恋愛不本位

 壁がだらだら濡れてゆく。
 窓の中では乾燥ばかり、ぱりぱりと破れて、ひらひらと飛ぶ。

北東の壁

 走馬燈、走馬燈!
 この手は緩められない、頼むから走馬燈、早く目の前に走馬燈!

"that's alright."

 あの人の骨が砕けた瞬間、私の手首も粉砕された。
 あの人の眸が転がった瞬間、私の両眼は硝子になった。

7A棟

 無機質に白い灯りがともる。
 たまさか、脱走人を追い立てる紅いランプがちかちか走る。

かのヲトコ、丸い瞳で物を言ふ。

 彼はまだ君の掌中にがっちり掴まれたままで気の毒だ。
 皮肉なことに、君には彼の輪郭すらも今では見えていない。

マルマレイダ

 オンナだったら誰だってあの話の寓意を知っている。
 一度ひらいてしまった脚が、二度と再びとじないということ。

百十一の雨

 沓脱の近くで天に腹向けてくたばっていたヤモリを、
 百合の鉢の焦げ茶の土にこっそり埋めてみた。

屋根裏の人

 もう沈みかけた太陽の中で、その影は前にも増してほっそりと、
 けれど黒々と、重厚に、がっしりと。右に左にささやかに揺れながら

 あんたの笑い方ってば、そりゃぁぐりぐりだよ。
 眸も歯並びも、頬の皺まで、ぐりぐりとして気味が悪いよ。

マドンナ・リリィ

 あの人は私が二つに切った。
 川に流すと、水は真紅に染まりましたよ。

警紅

 右の頬に唇よせて僕の半身は君を誘い、
 左の頬噛みちぎって僕の半身は君を止める。

酷捨

 私はもうすぐ呼吸を止める。
 そうしたら私の身体を開いてこの血を、お摂りになっても良いですよ。

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