警紅
朱の谷へ行きなさい、シアワセになれる。
朱の谷へ行きなさい、待ち人がきたる。
ずぅと、探し続けた人が其処に 居る。
右の肩に重くのしかかって僕の半身は君を誘い、左の肩に手をかけて僕の半身は君を止める。
行くべきだ。
行かぬが良い。
朱の谷へ。
明け切らぬ夜がある。
朱の谷へ。
暮れ切らぬ昼がある。
覚めやまぬ恋がある。
いつも空は暮色の紫、朝焼けの紅。
見上げれば両壁は真紅の断崖、岩の面には罪人の顔。
右の頬に唇よせて僕の半身は君を誘い、左の頬噛みちぎって僕の半身は君を止める。
行くべきか、
行かぬがよい、
朱の谷へ。
求めていた全ての答えが其処に現れる。
朱の谷へ。
欲していた限りの幻灯が其処に映される。
否定した偽りに、其処では二度と裏切られない。
朱の谷へ行きなさい、僕の半身は君を誘う。
朱の谷へ行きなさい、僕の半身は君を止める。
朱の谷へ行きなさい、シアワセになれる。
探し続けた偽りも幻影も、真実は全て其処に待つ。
朱の谷へ。
僕の半身は君を止める。
もう半身は、君を止めない。
[2003/5/26 (Mon)]
| 2003 / 習作 |