半眸マホガニィ
柳の下や逢魔ヶ時の街角にいるのなら、鬢のほつれた浴衣の女と決まっていそうなところだけれど、立っていたのは少年だった。
ほっそり、俯いた、少年だった。
蒼い顔をしてこちらを向いて、手招きをしてそれから消えた。
それだけのこと。
それだけのことに出逢って十日後、僕の家には葬式が出た。
亡くなったのは姉だった。
母はすましていたけれど、斎場で、まさに棺が竈に向かっていった刹那、追いすがるように数歩出て、
あ、ああ、
叫んだ。
父は黙って母の身体を押し止めていた。
姉がぼろぼろ崩れる骨になるまで、斎場の二階で待ちながら、ふと顔を上げると、かれがいた。窓の外のはるかにむこう、年若い楓の樹の下に佇んで、やっぱり蒼い顔をして、僕に向かって薄く笑った。僕は何やら悲しみを通り越し、そして無性に寂しくなって、やっぱり薄く笑い返した。
それだけのこと。
[2003/2/26 (Wed)]
| 2003 / 習作 |