百十一の雨
沓脱の近くで天に腹向けてくたばっていたヤモリを、百合の鉢の焦げ茶の土にこっそり埋めてみた。
平べったい死体を、鉢に運ぶまで二度ほど落とした。
一度目は別の鉢の縁、死体は今度は背を上にして、瞬間、あたかも生きて鉢にしがみついているかのようにも見えたので、私は埋めるのを止そうかと思ったほどだった。
二度目はぼうぼうと伸びたハコベの緑の、こんがらがった茎と茎の狭間、柔らかそうな葉と葉の狭間。石の上よりこの方がずっと良い、そのように、やはり見えたので、私は埋めるのを止そうかと再び思ったほどだった。
あまり長くは悩まずに、すぐ拾い上げて、百合の鉢の焦げ茶の土に、こっそり埋めた。
あの花ときたらば。
一昨年はずいぶん偉そうに咲いた。葉っぱは下から茶色く汚くなっていったけど、花だけは偉そうにでかでかと咲いていた。重さで茎がぐでんとうなだれてしまっても、花だけは悪びれもせずに堂々と咲いていた。性の悪そうな赤茶の花粉に、夜になると腹の太った蛾が群れていた。
去年は少しほっそりと咲いた。葉っぱはやっぱり下から茶色く汚くなっていったけど、花はなんだかすまなそうにしていた。花びらはしおしおと水気がなくて、うつむきかげんで乾いていった。茎がでろりと弧を描くほど、去年の花は重くもなくて、高いところでうなだれたまま、花びらはちぢんで乾いて、しおれていった。
あの花ときたらば、今年は咲かないかもしれないわ。
あの禍々しい花には、何か禍々しいものが欠けている。
そう思ったので、私はヤモリのぺたりとした腹を見た時、これを百合の鉢に埋めるべし、直感的にそう感じたのだった。
土はずぶずぶと獲物を沈める。
朝、水をやったばかりなのに、もう程良く乾いてしまって、もろもろとこぼれる。
先刻は気づかなかったけれど、鉢の中には鳥の羽毛がたくさん落ちていた。
[2003/4/24 (Thu)]
| 2003 / 習作 |