屍剣士
蒼い朝のなかに貴方がいた。
白い夜のなかに貴方はいた。
私は黒い冬の雨の国。
君が僕を沈めたのだ
君は僕を湖に沈めたのではなかったか
暗い、あまりに暗い、顔すらも映らない水面の、木の葉ばかり腐ってとろけそうな湖底の泥の、その中に貴方を沈めたのではなかったか。光る渦のなかに貴方はいた。
寒い朝の中に貴方はいた、何者にも侵されぬ湖底の泥に貴方はいた。
温い夜の中に貴方がいた、魚や古木の中をはね回るようにはしゃいでいた。
私は重力にぐいぐい足を引かれて陸の国。
僕が君を吊したのだ
僕は君を鳥居の前の柎の古木に吊したのではなかったか
はつ春の太陽にぬくまったぼろぼろの幹に、同じほどのちぎれそうなけれど容易に綻ぶことのないしぶとい縄をもってして、貴方が私を吊したのではなかったか。寒いうろの闇を足元に見て。
私と貴方ならば、どちらが先に呪詛を唱えたのだか。
私と貴方にして、どちらが先に眸を真紅に譲ったか。
もしも私が間違えて、あの時に、目覚めぬままに、眸を閉じて腕を広げて貴方の信念に従った貴方を裏切って、貴方の中に闇を突き刺していたらばその軽薄の、報いとなして。
闇はさぞかし嗤ったことだろう、
世界が永遠に救われぬままであったろう、
その報いとなして。
[2003/3/1 (Sat)]
| 2003 / 習作 |