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春号
去年:
庭の白木蓮の木にへばりついて、下から満開の様を眺めたりしていた。なのに今年は気が付くと散っていた。バタバタとする間にも縁側からチラと見やって、「もう咲いている。」と思ったことはあったのに、病院に通っている隙に、散っていた。
対照:
あの日に車で通り過ぎた知らない公園に、ぽつんと一本立っていた白木蓮を覚えている。家の木ほど大きくもなく、何かの間違いでは、と思うほどに凛としていた。不思議だった。きっと山頂でも湖畔でも官庁街でも知らない国でも、あの木ならばどこに居ようと、シャンと背筋をのばして立てるのだろう。そう思ったらば不思議だった。
Read More... 飛躍:
期待と未練を間違えたのかもねむ、とAが言う。Bは同意して、さうであるかもしれない、といふ期待が続いて、そのあと未練になつたのだらうね、と応じる。Cは黙ったまま、二人とも何を惚けているのやら、と考える。私はずっとずっと引っ込んだところで、円く眼を見開いて、ぴくりとも動かずに、膝を抱える。どうすれば良いかほんとうにわからずに、微塵も手ほどきを与えられぬままに、途方にくれて、もう過ごすことしかできなくなる。円く眼を見開いて、ぴくりとも動かずに、気づかれぬほど静かにゆっくりと呼吸しながら、過ごしてゆくしかないのだと思う。
心臓:
さりながら脈は首のうちでどくどくと打つ。自己主張の非常に激しきこと持ち主に勝る。理性が無い分、そちらが強い。
見てよ!
開いて!
私を見てよ!
あの人に私を曝してよ!
どくどくどくどく!
どくどくどくどく!
逆切レ:
鬱陶しいのだ、君。ちょっとは黙って私に合わせるってことを学びなよ。勝手に自己主張をするのはやめたまい、ホントに。私の中で君ばかりそんなふうに欲求全開というのはどうかな!理性で傷を抑え込もうとしている私を無視して、どくどくどくどく自己主張というのは、ちょっとどうなのかな!
「私の故郷」:
嘘でも良くてね、多分騙すのも良くてね、本当はそれがいつも背中からべったり僕にくっついているのでも、それが故に誰も僕に触れることができないというのでも、嘘で良かったのだ。一瞬で良かったのだ、僕の目をふさいで、それを見えないようにしてくれるだけでも、それだけでも、存在自体消滅することはなくとも、消滅したような振りをしてくれたらばそれだけでね。嘘も。
虚言:
私がそれを引き剥がします。
私が貴方の背後を守ります。
貴方は独りではありません。
振出:
それがべったり僕の背中に貼りついたまま。
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2003.04.05.22:13
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