2001 / 習作 | トップページへ戻る

あざらしの夜


 暗いね
 暗い
 真っ暗だ
 水が黒い
 水が重い

 ゆらゆら

 重いね
 闇が重い
 肩にのしかかる
 あのひとの血の色
 倒れた身体から円く
 素早く円く、滑り出す

 すらすら

 床の上 転げて
 流れ出る血の色
 あの人の胸の傷
 右の肋の下の傷
 黒い血の海

 真っ黒い血の海
 真っ暗な外は海

 あの人は抱え上げられて、乱暴に引きずられてきっと、
 崖の上から人形のように
 もう動きもしないから恐怖もなしに
 ああ、けれどもしも、もしも君が無念なら
 君が胸の裏に焦げるような痛みを抱いて逝ったなら

 海の底に横たえてその銃創の幾多の傷の
 流れ出す血が海を夜に留めるのならば

 為し損ねてしまった僕の治癒のため
 あざらしの皮をまとって忍んで行こう
 夜は僕を血の色で覆い隠すだろう
 血の痕は君を抉った鉛のもとへ導くだろう

 この暗い暗い夜を抜けて
 真っ黒な海をあがり
 水にぬめるあざらしの皮をまとって
 僕は忍んで行く
 朝へと続く血で幕をひく

 貴方の傷に血で蓋をする

[2001/8/3 (Fri)]

| 2001 / 習作 |

△ Page Top