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恋桜

 風が吹くだけで散るほどの恋か。

 冷たくはないのに、厳かすぎた肖像。
 偶像。
 石膏の正確さで、線を描く。
 日の中に立つ姿は暖かそうに在るけれど、触れてみたらばきっと、
 きっと、しんと、眠る骨の静けさで。
 手のひらを遮断するなにものかの恐ろしさで。

 終焉へと向かう様を数え、拾い上げ、頬に寄せ。
 やはり、しんと冷たく。
 そこに生など微塵も灯りはしない。
 始めから寄せている死の静けさ。

 風も吹かぬうちから鎮まっている恋へ。

 生まれ自体がその恋は死の途の辿り方。
 花片に桜の死に様を見よ。
 愛でているのは死の残骸。
 降りしきるのは恋の正体。

 救われぬままに、止められぬままに、
 そうして限りなく冷たいままで、静寂の結界の中に立ち、
 こぼれ息ひとつで、また近づいて行く恋の散り尽くし。
 寄せ付けぬ冷たさと高潔さ。
 侵し得ぬ荘厳の肌を持つ。

 蕾のままに、恋は路上に絶えた。

[2001/4/2 (Mon)]

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