ことのふ
心は正しくはありませぬ。
禍々しくも目覚めもうした、心は。
遣わされた命を全うすることを為す術を忘れ、心情に駆られてみすみす好機を逃すほど、心は正しくはないのだと、見ておわかりにはなりませぬのか。
正体を見極めよ、そう叫ぶ前に私が斬り倒すべきであったと、そのほうがずっと私の称号に、肩書きにはふさわしいやり方であったのだと、見ておわかりにはなりませぬのか。
心は禍々しくも目覚めもうした、決して正しくはありませぬ。
葛藤の真義を、今ここに、知りもうした。
闇を破るな義を重んじよ
光を導け百億を殺せ
唯一を守れ
唯一の為に他の何をも尊ばずに為せ
感情を抱くな
そう教えられて遣わされた。
私は貴方を、貴方という、私がその為に何人たりとも犠牲にして己を責めさせようと決して貴方を刃の下に晒しはしない、私の引き起こす全ての惨劇の元とも成り得よう貴方を、ただ送り戻す為だけに遣わされ、貴方が最後に私の存在を忘れ去ることだけを己に課している。
貴方を守り通し、その後に貴方の中から私をぬぐい去る。
その葛藤の真義を、貴方が初めて私に知らしめたのです、決して正しくはありませぬ。
貴方を守り通し、そうしてその後に、貴方は私を忘れるでしょう。
貴方を守り通せば、そうしたその後に貴方は私と過ごした時間をざっと巻き戻して、私と出逢う遙か以前に戻り、私は貴方の生涯の片隅にも記録されないでしょう。
心は正しくなどなれませぬ。
心は覚醒いたしもうした、禍々しくも。
心は禍々しく、今ようやく、葛藤の意味を突き付けられて、その輪郭を変え続けているのです。
貴方が私をその存在の記憶の欠片すらも残さずに、心の底に隠すのでもなしに、ただ亡くしてしまう、その為に、貴方を守ることはできませぬ。
永遠に突き放されて二度と姿を垣間見ることすらできなくなる、その為に、貴方を送り届けることはできませぬ。
けれど貴方を守ることしかできず、貴方を貴方の場所へ送り戻す為だけにしか、私は闘うことが、できませぬ。
心は禍々しく、
心は封を破り、
心は貴方を守りきることができませぬ。
貴方を傷つけることができませぬ。
[2004/2/20 (Fri)]
| 2004 / 習作 |