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落花の雪(未完)

 すき、だとか、こい、だとか。
 そのような言葉では、もう何も説明できません。けれどもそれ以外に、私は語る言葉を持ちません。
 涙と心以外に、さしあげられるものは、ありません。貴方を、まだ、しっかりと抱いている。
 愛は、これほど仄かに細くはありませぬ。恋は、ここまで根強くはないでしょう。

 あえて言うのなら、初恋が少し、これと似ておりました。けれど、まるで違う。
 あの時は、ただ新しい恋が見つからなかった故に、古いものにしがみついていただけ。
 けれど、貴方のことは。
 新しい恋をいたしましたが、そのたびに、貴方と比べて、これは違うと、否定ばかり。
 人を傷つけました。
 貴方と出逢う前の恋も、出逢った後の恋も、今では全て静まり、燃え尽き、跡形もありません。

 すきだとか、こいだとか。どれもひとつも、本当ではない気がいたします。
 貴方は、私を微塵も想ってはくださらないのかもしれない。
 そのような恋のあること、存じております。どれほど祈っても、願っても、そうして、嘆いたところで、所詮叶わぬ恋のあることは、わかっているのです。
 けれども、もしかしたら、という甘えが、心を満たしてゆくのです。
 私は貴方から、一つの約束も、頂いてはおりません。頼りにできるような言葉は、一つも発せられておりません。
 けれど貴方は、三年前。私の為に、ただ私の為だけに、あの場を歩いてくださった。貴方にとって、ほんの一瞬の遊び心だとしても、私にはその先の永遠の、縋りなのです。
 信じてどうにかなるものならば、これは貴方を灼き尽くしておりましょう。もう、とうに。

 ですから私は決めたのです。

 貴方も私と同じほど、苦しさに迫られるように私のことを想い、心を蝕まれ、少しの鎮まりに忘却を期待し、そうかと思えばまた夢にみて、新しく恋をしても否定ばかり、そうして、けれど何か心の中の大きなものに阻まれて、決して、逢うまいと。
 心を決めておられるに違いない。そう信じるしか、道がないところまで、思い詰めておられるに違いない。
 ここまで人は、人を想えるものでしょうか。
 これで見返りが無いなどということ、信じたくはありません。
 世間の事例など全て嘘であると、あの人達は私がするほど、人を想ってはいないのだと、そう信じたいだけなのです。いいえ、私は、そう決めたのです。
 それ以外に生きるすべはありません。

 例えるならば、この思慕は秋の花。決して華やかさは持ちませぬ。どこまでも、哀しさを誘うばかり。どれほど鮮やかに咲き誇っても、淋しさを募らせるばかり。
 恋は全て、春の花です。軽やかに咲いて心弾ませ、若葉に隠れ、しぼむ時すら惜しげ無い。大輪でなくとも、鮮やかでなくとも、春の花はそれだけで充分に、光を浴びて輝いて見えます。
 春の花で、哀しさを誘うのは一つだけ。
 さくら。
 あれは春の雪。

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