天高く(未完)
眼下の山々を眺めている。
紅葉は今が盛んか。
赤く鮮やかな葉が、雲のように広がる様を見ているうちに、ふと、燃えているようだ、などと呟いた。
堕ちる覚悟は出来ている。一年も前からずっとだ。
あの人が私を引き戻そうと、突き落とそうとかまいはしなかった。
どちらにしろ、それは私にとってただの経過でしかなかった。
大切なのはその後だったのだ。
それなのに。
背中を預けた人は、そのまま此処を去って行った。
私はそれ以来崖の上に座り込んだままで、ただやるせなく、ぼうとしている。
*
ある日、崖の下からこちらを見上げている人に気がついた。
降りておいで。
その人は優しく笑う。
下には暖かい場所があった。
たぶん私を必要としている人がいた。
けれど私の目の前には、昔愛した人の残像が在る。
あの横顔。
薄れかけていくそれがいつか完全に姿を消す時、私は屹度それを追って立ち上がるのだろう。
ここから身を投じるのに違いない。
落ちることを怖ろしいとは思わなかった。
私は要するに、この場所でこうしている事に飽きていた。
*
| 2000 / オハナシ |