雪白(未完)
焦点の合わぬ目をした女が、髪の先からするすると、ひとすじに雪へ融けていく。
それを見つめながら息を逃した。
これで眠れる。
そう思った。
もうあの忌々しい瞳を見ることもない。
二度とあの髪を指にかけることは。
深く傷のついた心の膚。
冷えた頬の、清と堅い拒絶。
もう二度と胸は疼かないはずだった。
これで眠れる。そのはずだった。
雪に負けたのだ。
白きに負けた。
雪の、解けて混じってぐちゃぐちゃと、穢れていく様を畏れるばかりに、火を示した。
自ら火に入れと、無言のうちに、追い詰めた。
この手で直に終わらせた方が、どれほど良かったかは知れぬまま。
雪白。
雪から生まれた異界の娘を、火に入れた。
白き膚の、穢れる様を、畏れるばかり。
その膚を守るなど、夢にも思わず。思考すらかすめず。
雪の白きを、ただ刹那の恋にもろとも、消しさらんとばかりに。
恋 ではない。
| 2000 / オハナシ |